病院の経営改善施策と効果的に進めるための経営分析
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 ホワイトペーパー
独立行政法人福祉医療機構(WAM)が2025年1月に公表したデータ(2023年度決算)によると、一般病院の医業利益率はマイナス2.3%へと悪化し、赤字病院の割合は7割を超えました。まさに今、多くの理事長・院長が病院経営の厳しい現実に直面しています。
しかし、こうした病院経営の状況を停滞させている要因は、物価高騰や賃上げといった外部環境の変化だけではありません。現場のコンサルタントが数多くの支援先で目にするのは、むしろ内部構造に潜む「機能不全」です。本記事では、既存の延長線上にある効率化を超え、持続可能な経営基盤を再構築するために不可欠な「組織の在り方の再設計」について、現場視点で解説します。
なぜ赤字病院が増加しているのか?病院経営の利益を左右する要因
なぜ今、病院を取り巻く環境は、これまでにないスピードで加速しているのでしょうか。その要因は、避けることのできない外部環境の激変と、その変化に追いついていない深刻な内部構造の機能不全という、二段階の問題だと考えます。
外部環境という引き金:2024年度診療報酬改定と物価高騰の衝撃
まず直視すべきは、抗いようのない外部要因です。2024年度の診療報酬改定では、賃上げ対応としてプラス改定が行われたものの、実際にはそれを遥かに上回るペースで光熱水費・医薬品費・食材費等の高騰が続いています。さらに、生産年齢人口の減少に伴う熾烈な人材獲得競争により、派遣スタッフへの依存や給与水準の引き上げを余儀なくされています。多くの病院で増収減益あるいは医業赤字の拡大という、これまでの経営努力が通用しない局面を迎えています。
数字だけの改善ではうまくいかない理由
しかし、経費削減や単価アップといった「数字上のつじつま合わせ」だけでは、一時的な効果はあっても、持続的な黒字化には至りません。なぜなら、現場がやらされ感で疲弊している状態では、どれほど立派な経営計画を立てても組織は動かないからです。
多くの病院を足止めさせているのは、単なる数字の不足ではなく、以下の3つの機能不全が複雑に絡み合った内部構造の問題です。
- 現場の空気感:共通して感じる「疲弊感」と「諦め」
赤字が続き、次々と「効率化」が求められる中で、現場には「これ以上何をすればいいんだ」という疲弊感が漂います。ネガティブな発言を組織が許容してしまう風土は、変化に対する無言の抵抗となり、経営側のメッセージを完全に遮断してしまいます。
- リソース不足の本質:「リーダー・企画人材」の不在
人手不足の本質は、現場スタッフの数だけではありません。経営者のパートナーとして財務視点で分析したり、現場の納得感を引き出しながら施策を形にしたりできる「経営の右腕(企画人材)」が圧倒的に不足しています。企画・提案なくして、良い方向への変化はありません。
- 経営者の孤独:診療とマネジメントの板挟み
中小規模の病院では、プレイングマネジャーである院長が診療に追われ、経営に割く時間が奪われる中で、組織は「トップが言わないと動かない」という依存構造に陥りがちです。事務長が守りに偏り、理事長や院長と対等かつ前向きに経営を語るブレインとして機能していない二重苦が、意思決定を遅らせるボトルネックとなっています。
病院の経営を改善するために必要なこと
外部環境の激変という荒波を乗り越え、持続可能な経営基盤を再構築するためには、具体的にどのようなアクションを起こすべきでしょうか。
持続可能な経営基盤を再構築するためには、論理的な手法に加え、病院特有の「内部構造の課題」を解消する具体的なアクションが求められます。
それぞれ詳しく解説します。
①経営実態と本質的課題の正しい把握
経営改善の第一歩は、固定観念にとらわれず、客観的なデータで自院の経営状況を定量的に評価し、組織状態とともに窮境要因を特定することです。一般的には財務諸表の分析が主となりますが、新幹部医師の確保や新事務長の就任後にすべきことも、窮境要因の特定だと考えます。中小病院では、大病院より見えない壁が把握を阻む傾向にあります。適切な数値の管理がされていなかったり、経営者が「地域のためだから赤字でも仕方ない」と諦めてしまっていたりするケースが見られます。
変革の要諦:理事長・院長は「医療のスペシャリスト」であると同時に、現状を数字で語る「経営の責任者」としての視点を持つ必要があります。地域にとって必要な医療提供体制を残していくためにも、情に流されず、外部の客観的なベンチマークと比較し、自院の立ち位置を正確に認識することから改革の土台が整います。
②経営戦略・事業モデルの見直し
安定した経営には、ビジョンに基づいた戦略の存在と、環境変化に適した計画の見直しが不可欠です。しかし、従来の慣習や歴史により経営者自身が変革を進められなかったり、方針を打ち出しても、現場側で変化を拒んでどのような事業モデルに固執してしまうケースが多く見られます。実際には、「患者さんに優しく」という曖昧な病院方針が、実は戦略を歪めているケースも見られます。
変革の要諦:地域において、自院の役割は何で、どんな価値を提供するのか、それをどのような事業モデルで実現していくのかを問い直してください。これまでの環境変化に加えて、将来の環境変化も踏まえ、地域での確実なポジショニングと成立する事業モデルを考え、その実現の形を再検証していくことで、選ばれ続ける病院としての戦略を再定義できます。
③職員の生産性の向上
病院事業は労働集約型のビジネスであり、職員の生産性が経営の生命線です。地域に選ばれ、患者様に選ばれてこその病院ですが、データ分析において患者数減少を嘆く前に、ビジネス構造を見直す必要があります。現場では診療報酬ルールの理解不足や解釈の齟齬により、施設基準を満たしているにもかかわらず本来取得可能な加算を見逃しているケースも見られます。政策ビジネスである限り、診療報酬の解釈によって収益構造が左右されますが、部署や課を跨いだ人的リソースの配置変更により、新規または上位の施設基準を取得できるケースがあります。特に看護部においては、病棟別にセクショナリズムがあり、病院全体の視点でのリソース適正化が進んでいない場合があります。
変革の要諦:病院の収益のほとんどが保険収益であり、医師の診療をはじめ、看護師やコメディカル、医事課などの多様な職種の業務フローの結果として、決められた収益を実際に確保できます。損益バランスの悪さを特定するうえで、医師別や看護師別の生産性を客観的なベンチマークと比較することは有効です。さらに、医療職を中心とした病院全体のリソースを使ってどのように収益及び利益を出していくのかを考え、実践し続けることが、持続的な生産性の向上につながります。
④コスト適正化
コスト削減を単なる支出の抑制と捉えず、広い視野でのコストマネジメントが必要です。現場では「長年お世話になっている業者だから」という情に流され、業者の切り替えを選択肢にいれないなど、交渉力を自ら弱め、結果として市場価格との価格乖離を放置してしまっているケースが見られます。また、価格交渉力が弱いことで、業者の言われるがままに契約をしてしまっているケースも見られます。
変革の要諦:単発の値下げ交渉に終始せず、業者の切り替えや仕様変更、共同購買スキームの検討など、病院それぞれにとって必要なコストをどのように見込むかを考える必要があります。材料や機器の購入、委託等について、何を外部リソースで補って効率化を図ることができるか、何を自前で実施するかを、改めて検討することが有効です。これらの見直しにより、結果的に現場の無駄な作業負荷も軽減され、副次的な業務改善を促せる場合もあります。
⑤組織マネジメント
生産性が低いというデータ分析結果をそのまま現場に突きつけても組織は動きません。また、人件費は単なるコストでもありません。変革や改善を進めるうえで重要になるのが、経営改善のストーリーの「翻訳」と「仕組み」の視点です。地域密着病院では、従来はトップダウンの組織傾向がありましたが、経営幹部の世代交代等を踏まえ、トップの指示を待つ思考停止気味の組織になっているケースが多く見られます。また、経営者の「黒字を目指したい」という意気込みや発言も、現場にとっては我が事に聞こえず、結局どうすればよいか分からないまま改革が進まないということもよく見られます。
変革の要諦:短期的な変革は、妥当な戦略・計画の設定と強力なリーダーシップにより実現しやすい傾向にあります。しかし、有事の改善の取り組みを、持続的な経営へと変えていくためには、幹部や現場が現況と変化の必要性を理解し、現場が自律的に動く仕組みの再設計が不可欠です。例えば、財務状況を細かく正確に伝えるより、イメージしやすい「家庭の家計簿」に例えるなどの翻訳を行い、理解を促す工夫も有効です。また、組織変革においては、小さな成功を積み上げ、それをトップが積極的に承認する場を作ることで職員の自立的な行動変容を引き出せる場合があります。
病院の経営改善を効果的に進めるために
現場の納得感を生む翻訳のプロセス
なぜ、今の経営状況となっているのか、赤字要因は何なのかを整理することは重要ですが、数字の羅列に意味を持たせ、改善のストーリーとして言語化するプロセスが不可欠です。どれほど緻密なデータがあっても、それが現場の納得感を得られなければ、単なる「数字の押し付け」として反発を招く結果に終わってしまいます。分析の真の目的は現状を非難することではなく、職員一人ひとりが「自分の仕事がどう経営に貢献しているか」を可視化し、未来に向けて変革を起こす道筋を作ることにあります。
信頼を構築するリスペクトのアプローチ
経営改善を実効性のあるものにするための要所は、現場を支える診療部長や看護師長、コメディカル部門長といったリーダーたちと、揺るぎない信頼関係を築くことにあります。現場には「外の人間や上層部は、私たちの苦労を知らずに数字ばかりを押し付けてくる」という、切実な不信感が少なからず存在します。この見えない壁を取り払うためには、分析データを示す前に、まず一対一で彼らが日々直面している悩みや葛藤に真摯に向き合い、現場の想いを受け止めることから始めなければなりません。日々の業務の大変さに耳を傾け、感謝を示しながら、「どうすれば現場の負担を減らし、より良い医療を提供できるか」という問いを分かち合う。そうした丁寧な対話を重ねることで、数字は誰かを追い詰めるための道具ではなく、皆で現状を変えていくための共通の道しるべへと変わっていきます。
外部の声を定性データとして分析に組み込む
自院の本当の弱点は、財務諸表や稼働率といった内部の定量データだけでは見えてきません。そこで不可欠なのが、地域のクリニックやケアマネジャーを対象としたヒアリングやアンケート調査による定性分析です。これを単なる、営業における挨拶回りで終わらせず、経営改善のヒントとなる一次情報として利用します。
私たちが現場でヒアリングを行う際、特に注視するのは、施設基準や設備といったハード面ではなく、アクセシビリティ(接しやすさ)という目に見えない指標です。病院内の認識では「紹介はすべて受けており、断っていない」と自負していても、外部の評価を分析すると、「昼休みから特定の時間帯は電話がつながらず、多忙な外来の合間に紹介の相談ができない」「返信のFAXが翌日以降になるため、患者に次の方針をその場で伝えられない」といった、具体的かつ物理的・心理的なボトルネックが浮き彫りになることがあります。こうした外部の声から目詰まりを可視化することで、紹介件数が伸び悩む真因を特定し、劇的な改善へとつなげることが可能になります。
小さな成功が組織の熱量を引き出す
大規模な改革は成果が出るまでに時間を要するため、現場のモチベーションを維持するためにも、小さな成功を意図的に、また継続的に創出することが重要です。例えば、重苦しかった経営会議の終わり方を工夫して前向きな空気感で締めくくるようにしたり、入退院支援加算や介護支援等連携指導料といった、運用のルールを少し変えるだけで翌日から収益が上がる項目から改善に着手したりします。こうした「自分たちの行動がすぐに数字として現れた」という手応えを、トップが積極的に認め、承認する場を設けることで、組織全体で自律的な改善のサイクルが回り始めます。
利益改善で黒字決算へ、病院の経営改善のポイント
リーダーシップの真髄は言葉と姿勢に宿る
どれほど精緻な財務分析を行い、優れた戦略を立案したとしても、最終的に組織を動かし、黒字決算という成果へと導くのは「経営層の言葉と姿勢」に他なりません。経営者の言葉と姿勢が見えないままでは、物事はうまく進みません。病院経営の今後を左右するのは、小手先のテクニックではなく、リーダーが現場に示す本気の覚悟です。そして、その覚悟に見合った、日々の言動となっているかを現場は見ています。経営者や現場と成果を上げていくコンサルタントが病院の現場で目にする劇的な変化の瞬間には、常にトップの自己変革が伴っています。
覚悟が諦めを一体感へと変える
ある深刻な赤字に苦しんでいた病院では、院長が全職員を前にして、自らの経営責任と力不足を率直に認め、病院を守るために力を貸してほしいと真摯に頭を下げました。この人間味のある決意表明が、それまで冷ややかだった現場の諦めを、自分たちが病院を支えるという一体感へと変えたのです。トップが弱さを見せつつも、守るべき一線を明確に示したとき、マネジメントは本来の駆動力を発揮し始めます。
ビジョンという名の夢が地道な活動を支える
再生フェーズ(抜本的な改革が必要な段階)にある組織にこそ、目先の数字をよくする叱咤激励だけでなく、その先にあるビジョンという名の夢を語る必要があります。収支改善やコスト削減、業務改善などはあくまで手段であり、目的は地域の人たちが困ったときに、真っ先に思い出してくれる場所であり続け、必要な医療サービスを必要な人々に提供し続けることです。5年後に新棟を建てる、あるいは職員が家族に誇れるような地域No.1の職場環境を実現するなど、具体的でワクワクする未来を共有することで、現場の日々の地道な改善活動に確かな意味が宿ります。マーケット状況に左右されない、病院のブランディングとポジショニングを確立していくことが重要です。
経営改善は地域の未来を守り・創ること
コロナ禍を経て、2026年の病院を取り巻く環境は一段と厳しさを増しています。しかし、外部環境の激変を嘆くだけでは現状を打破できません。内部構造に潜む従前運用からの機能不全を直視し、組織の在り方を一から再設計することで、道は必ず拓けます。
経営改善とは、単に帳簿上の赤字を消す作業ではありません。それは、病院という地域のインフラ機能として、地域に暮らす人々の安心の拠点を守り、次世代へバトンをつなぐ責任ある仕事です。今、その第一歩を、「自らが変わる」というリーダーの決断と、現場の声を直接聴く対話から始めてみませんか。
政策の影響が大きいこともあり、病院が良い方向へ動き出すために本当に必要なのは、高度な戦略以上に、現場で共に働くスタッフとの信頼関係を再構築する内部体制の改善です。私たちが数々の現場で目にしてきた組織再生の原動力は、常にこうしたリーダーの真摯な歩み寄りの中に宿っています。
貴院の経営課題解決への第一歩を、日本経営が全面的にサポートいたします。
本稿の執筆者

井上 俊孝(いのうえ としたか)
株式会社日本経営 戦略コンサルティング部 次長
日本経営入社後、病院を中心とした事業の経営コンサルティング業務に従事。病院の建て替え支援および現場での経営改善実行支援を目的とした公的グループ本部、急性期2病院への出向も経験しており、100病院以上の支援実績がある。

渡辺 舜(わたなべしゅん)
株式会社日本経営 戦略コンサルティング部 次長
2014年に日本経営に入社後、公立公的、民間等の経営主体を問わず、通常の経営改善から事業再生、M&Aなど100病院以上の経営改善に従事。事業デューデリジェンスから、戦略の立案、計画策定、実行支援まで、一貫したコンサルティングを提供。また、精神科病院及び障害施設向けの収益構造研究会などを複数立ち上げ、調査、運営等の実績を有する。

佐々木 健晟(ささき けんせい)
株式会社日本経営 戦略コンサルティング部 課長
日本経営入社後、公立・公的、民間病院の隔てなく、60以上の医療機関への支援に従事。収益改善および経営改善を専門分野とし、M&Aや事業再生、病院の建て替え支援など幅広い実績を持つ。30床規模の地域密着型病院から600床規模の大型病院まで、病院の規模や機能に合わせた最適な改善提案を強みとしている。2021年からは市中銀行への出向も経験しており、金融・経営の両側面から多角的な支援を推進している。
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